小泉首相の靖国神社参拝に対する抗議声明

 

内閣総理大臣 小泉純一郎殿

 

 私たち日本キリスト改革派教会は、8月15日に行われた小泉首相の靖国神社参拝に対し、以下の理由により強く抗議します。

1. 首相の靖国参拝は「心の問題」ではすまされません

 小泉首相はこの8月15日、就任以来6度目の靖国参拝を行いました。昨年の9月30日に大阪高裁で憲法第20条3項に基づいて言い渡された違憲判決、並びに参拝しないことを求める国内外の声に耳を傾けることなく参拝を強行しました。

 今回、首相は、「内閣総理大臣 小泉純一郎」と記帳した上で、本殿に昇り一礼して参拝を行いました。しかし、どのような参拝方式を取ろうとも、参拝そのものが、政府指摘のごとく、「宗教心のあらわれ」(1978年政府統一見解)であり、宗教行為であることは明らかです。

 首相は参拝後、「総理大臣である人間小泉純一郎が参拝している。職務として参拝しているのではない」と、私的参拝であることを強調しました。また、政教分離の原則に反するとの指摘に対しては、「思想、良心の自由を侵してはならない。まさに心の問題だ」と反論しました。私たちは、首相にも一人の人間、私人として、思想・良心の自由という権利が保障されていることを認めるものです。しかし、憲法第19条の規定は、国家権力から個人の思想・良心の自由を守るためのものであり、首相がこれを盾に参拝を正当化することは正しくありません。靖国参拝については、首相が私的参拝と言えば私的参拝となり、それですむという性質のものではありません。

 それは、靖国神社が、先の戦争において国家の宗教的機関として、天皇制軍国主義に基づく国家主義を国民とアジア諸国の人民に植えつけ、日本国民を侵略戦争へと駆り立てる中枢的な役割を果たしてきた神社だからです。先の戦争を「聖戦」と主張し、戦没者を英霊として顕彰する靖国神社に首相が参拝しながら、「神道奨励や過去の戦争を美化、軍国主義を称揚するために行っているのではない」との首相の弁明は通用しません。首相の靖国参拝は、「心の問題」ではすまされない公的職務上の問題です。昨年の大阪高裁判決が、首相の参拝を職務上の行為と認定した通りです。被害国であるアジア諸国及びこれを憂う人々が問題にしてきたこともこのことなのです。

 1996年7月、故橋本龍太郎首相は靖国参拝を行いアジア諸国から厳しい批判を受けました。その結果、「この仕事には私人というものはない、ということを知った」と語り、以後、在任中の参拝を行いませんでした。小泉首相は、この言葉を重く受け止めるべきです。

 国政の最高責任者である首相が靖国参拝問題において立つべきところは、憲法20条3項(政教分離の原則)であることを弁えるべきです。

2.首相の靖国参拝はアジア諸国と人民を傷つけ、裏切る行為です

 小泉首相は8月15日の靖国参拝後、「15日を避けても、いつも批判される。この問題を大きく取り上げようとする勢力は変わらない。いつ行っても同じなら、今日行くのが適切だと判断した」と開き直りの説明をしました。しかし、アジア諸国が首相の靖国参拝の度ごとに訴え続けてきたことは、参拝の日をずらすことではなく、参拝をしないようにということでした。さらに、この日は韓国では日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」であり、中国でも歴史的な意味を持つ日です。被害国と被害国人民の尊厳と心を最も傷つけるこの日をあえて選んで参拝を強行した小泉首相の歴史認識は厳しく問われるべきです。

 参拝を繰り返してきた首相と我が国に対し、「軍国主義と侵略の歴史を美化、正当化する参拝に深い失望と憤怒を表明する」(韓国)、「首相の行為は国際正義への挑戦で、人類の良識を踏みにじるものだ」(中国)と、被害国政府からの激しい怒りと非難が向けられましたが、もとより当然のことであると言わなければなりません。

 我が国はアジア・太平洋戦争の反省の上に立って、日本国憲法を定め、その9条において戦争を放棄し、平和国家として歩むことを誓ったはずです。また、歴代の総理大臣も1994年の「村山談話」に見られるように、戦争の過ちの反省を国の内外に表明してきました。それにもかかわらず、日本国を代表する国家機関である首相が侵略戦争の精神的支柱であった靖国神社に参拝したことは、アジア・太平洋戦争における侵略を正当化することと同じであり、そのような行為は、日本国の首相として許されるものではありません。

 私たち日本の教会も先の戦争において侵略戦争に協力するという罪を犯しました。だからこそ、多くの日本の教会は戦後、アジア諸国への侵略戦争に対する戦争協力の罪を告白し、二度とそのような過ちを犯さないことを誓いました。したがって私たちは、侵略戦争の反省をくつがえし、アジア諸国と人民を傷つけ、裏切ることとなる小泉首相の靖国参拝を見過ごすことができません。

 

 以上の理由により、私たちは6度にわたり毎年繰り返されてきた小泉首相の靖国神社参拝に強く抗議いたします。
  
2006年9月4日
                           包括宗教法人  日本キリスト改革派教会
                           代表役員・大会議長  山 中 雄 一 郎