内閣総理大臣 安倍 晋三 殿

衆議院議長  河野 洋平 殿

参議院議長  扇  千景 殿

文部科学大臣 伊吹 文明 殿

 

教育基本法「改正」に反対する声明

 

 政府は先の第164回通常国会に提出した「教育基本法改正案」を継続審議とし、今臨時国会において成立を図ろうとしています。わたしたち日本キリスト改革派教会は「神のみが良心の主である」という信仰の立場から、教育基本法の「改正」に強く抗議するとともに、以下の理由で本法案に反対します。

 

1.教育基本法「改正」は戦前の国家主義教育の復活に道を開きます


 現在の教育基本法は、教育勅語によって天皇を国民道徳と国民教育の中心においた戦前の国家主義教育に対する大きな反省から出発しています。すなわち、戦前の国家主義教育は「忠君愛国」の名のもと、個人の「思想・信条の自由」、「良心の自由」を著しく抑圧し、天皇制国家に従順な国民を育成し、結果的に日本全体を無謀な侵略戦争に駆り立てて行きました。そのため戦後はその反省から、日本国憲法の基本的人権尊重の原則と平和主義の原則に立って、一人一人の「個人の尊厳」を重んじ、「人格の完成」を目指す、現在の教育基本法が制定されたのです。

 しかし、この度の「改正」案では、前文において「個人の尊厳を重んじ」に加えて「公共の精神を尊び」、「伝統を継承する」ことが掲げられています。また、「改正」案第二条五では「伝統と文化を尊重し」、「我が国と郷土を愛する」ことが掲げられ、第五条2では義務教育の目的の中に「国家及び社会の形成者として必要な資質を養う」ことが掲げられています。こうした「改正」は従来の教育基本法の精神と目的に対する大きな変更であり、教育の目的を「人格の完成」から、再び「国家のための人間を作る」という国家主義教育に変質させ、戦前の国家主義教育の復活に道を開くものです。 
 


2.教育基本法「改正」は、「思想・信条の自由」、「良心の自由」を侵害します

 「改正」案の第二条五では、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」となっており、教育現場において愛国心教育が強制される危険があります。そもそも伝統や文化に対する尊重の仕方や、国の愛し方、その表現の仕方は個々人において多様であるべきであり、法律によって国家が国民に上から強制すべきことではありません。それにも関わらず、そのようなことが法律によって強制されるなら、結果的には特定の立場に立った「愛国心」や「伝統や文化の尊重」が子供たちに強制され、国家による「思想・信条の自由」、「良心の自由」の侵害に道を開くこととなります。

 政府与党内には従来から戦前の教育勅語を美化し、国家主義教育の復活を狙って教育基本法「改正」を主張する動きがあります。例えば、森喜朗前首相の「教育勅語には、時代を超えて普遍的な哲学がある」(2000年5月)、町村信孝元文部科学大臣の「教育基本法を変えて小学生が伊勢神宮に行けるようにしなければならない」、「神道を日本人の宗教心として教育に基本的に入れるべきである」(2006年4月)等の発言に、そのことが現れています。また、「国旗・国歌法」の制定以後、国公立学校においては「日の丸・君が代」が教職員に強制され、それに服しない者への処分という人権侵害まで起っています。こうした状況の中で、もし教育基本法が「改正」されたなら、まさに戦前の「国家神道」的価値観に立って、「国を愛する」とか、「伝統や文化を尊重する」ということが子供たちに、さらには、国民一般に強制される危険が非常に強くなります。

 聖書は、「体は殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れるな。」(新約聖書 マタイによる福音書10章28節)と語り、「神のみが良心の主」であることを教えています。したがって、わたしたちは以上の理由から、「思想・信条の自由」、「良心の自由」を侵害し、戦前の国家主義教育の復活に道を開く教育基本法「改正」に強く反対します。また、たとえ、そのような法案が立法化されたとしても、そのような強制に対しては「信仰の良心」に従って断固拒否することを表明します。

 「人間に従うよりも、神に従わなければなりません。」
                    (新約聖書 使徒言行録5章29節)

 

2006年10月13日

                  包括宗教法人 日本キリスト改革派教会
                  代表役員・大会議長   山中 雄一郎